0004.広いアパートで起こった悲劇

不登校に至るまで

私が3歳の時に引っ越しをした。前の家からはそれほど離れてはいなかったが、山の斜面に寄りかかるように建てられた3階建てのアパートだった。1階までの階段がすごく長くいつも母が息切れしながら上っていた記憶がある。

間取りは2DKだったが前の家より一部屋一部屋が広くとてもゆったりしていた。トイレやお風呂場もとてもきれいで、後は何よりベランダが自転車で走り回れるほど広くて驚いた。

隣の家には2歳年下の女の子が住んでいた。とてもかわいかったのが強く印象に残っている。すぐ仲良くなりよく2人で遊んでいた。上の階にはやはり年下の男の子が住んでいた。3人で遊ぶこともよくあった。幼稚園に通うまではその2人とよく遊んでいた。

この家に引っ越した時はまだ父は事業を辞めていなかった。一度失敗したのだが、再チャレンジしていた。しかしなかなかうまくいかずお酒を飲んで家に帰っては母に怒鳴り散らし暴力を振るっていた。

以前は祖父母の家に母に連れられて避難していたのだが、祖父が病気で亡くなってしまい、祖母は和歌山の伯父に引き取られて引っ越してしまったので、避難する場所がなくなってしまっていた。

そしてそのアパートで悲劇は起こる。ある日父がいつもより激しく母に暴力を振るっていた。その時は包丁を取り出して母に突き付けていたそうだ。私は隣の部屋でただひたすら泣いていた。

しばらくしたら突然静かになった。そして父が私の寝室に入り聞いてきた。
「お母さんはどこにいる!どこに行ったんだ!」
母はいなくなっていた。父は家中を探しまくった。でもどこにもいない。父は私に包丁を突き付けて言った。
「お母さんはどこに行った!言わないと殺すぞ!!」
殺されたくなかった私は思わず、
「玄関から出て行った」
と言った。

父は玄関に行った。玄関には鍵がかかっていてチェーンロックもしてあった。明らかに玄関から出ていってはいなかった。でも父はお酒が回っていたせいかそこまで気が付かずひたすら家中を探し回っていた。

しばらくしたら警察がやってきた。父が比較的冷静に対応した。数時間後また警察がやってきた。もう早朝になっていたと思う。父は酔いもさめてきたのかかなり冷静に対応していた。

母に後日聞いたのだが、110番通報したのは母だった。母は隣の家にベランダづたいに逃げていたのだ。隣の家で私の異常なほどの泣き声が聞こえたので警察に通報したらしい。最初は警察は家庭のもめごとだからと相手にしなかったらしいが、
「子どもが殺されたら責任取れるんですか!」
と言ったら、警察は動いてくれたとのこと。当時の事は結構鮮明に覚えているのだが、命の危険までは感じなかった気はする。ただいつもより激しく泣いてたのは確かだ。母もいなくなってしまっていたから。

朝になったが母は戻っては来なかった。父と一緒に朝食を食べた。昼近くになったら市内に住む親戚の伯父が訪ねてきた。正確には母の姉の内縁の夫である。色々と事情があるらしい。叔父さんは私を迎えに来たと言ってきた。

母は朝になって伯母の元に行ったそうだ。そして私を引き取るために伯父を向かわせたらしい。伯父さんは、
「お母さんが家にいるから一緒に行こう」
と言ってきた。でもその時私は伯父さんのいう事が信じられなかった。騙されてどこかに連れ去られてしまうのではないかと思ってしまった。昨夜の大事のせいで冷静な判断力がなくなってしまっていたのかもしれない。何たってまだ4歳なのだから。
「行きたくない。」
私はそう言ってしまった。諦めて伯父は帰っていった。母は私を連れて遠くに逃げてそのまま離婚するつもりだったらしい。私がそのチャンスの芽を潰してしまった。

数日して父と一緒に伯母の家に母を迎えに行った。母は疲れ果てた様子でかなり元気がなかった。当然だろう。あんな事があったのだから。

母にはこのことは長年小言のように言われ続けてしまった。
「あの時来てくれてれば離婚できてたのに」
と。でも仕方がない。伯父の事が信じられなったのだから。伯母も一緒に来てくれていたらまた違っていたのかもしれない。

その後も父の酒乱と暴力は続いた。そしてついに母は私を連れて家を出る決断をするに至った。

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