母はついに決断をして私を連れて家を出ることにした。和歌山に母の兄にあたる親戚がいて、伯母の勧めるがままに向かうことにしたのだ。
だが、母は迷っていた。叔父の家に行けば父との離婚を反対され引き戻されるのではないか。それに何より迷惑をかけてしまうのではないかという事が大きかった。
和歌山へ向かうには新幹線で名古屋から新大阪、新大阪から難波に向かい、難波から和歌山市駅に向かったと記憶している、4歳の時の記憶なので多少違うかもしれない。
母に連れられて新大阪までついた。そこから大阪駅まで歩いて難波まで行くのだが、母は伯父の家に向かうのをためらった。名古屋に戻り名古屋で自活すればいいのではという思いがあった。
母は私に言った。
「名古屋に戻ることにする」
私は和歌山の親戚の伯父さんがすごく好きで、会えるのを楽しみにしていたので、その場で大泣きして駄々をこねてしまった。母は手のつけようがなくなってしまい、仕方なく
「和歌山に行くよ」
と私に告げ、ようやく私は大人しくなった。
だが母は和歌山に行くと告げたが和歌山とは反対の方向の名古屋方面に歩き出した。普通4歳の子どもなら気づかず母についていくのだが、私は掲示板の行き先の漢字が読める子どもだったのだ。
「お母さん、そっちは名古屋って書いてあるよ。和歌山に行くにはこっちの大阪方面だよ。」
母は私をごまかすことができなかった。母はあきらめて和歌山に向かうことにした。
大人になってから母と子の事では時々口論になった。母は、
「何で4歳なのに漢字が読めるの!それに和歌山に行くと駄々をこねなければ今頃離婚できてたかもしれない」
それに対して私は、
「じゃあ何であの時に僕にちゃんと理由を説明しなかったの!理由も聞かされず名古屋に戻ると言われたら泣くに決まってるじゃないか!」
それに対し母は、
「4歳の子に理由を説明しても理解できるわけないじゃないの!」
それに対して私は、
「漢字だって読めたんだ!理由をちゃんと説明すれば理解できるはずだ!」
実際当時の私が説明されて理解できたかどうかは今となっては正直わからない。ただ試しもしないで諦めてしまった母は、もしかしたら大きなチャンスを逃してしまっていたのかもしれない。
こうして母と私は和歌山の親戚の伯父さんの家に着いたのであった。
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